さよなら、人類 (その2)
『さよなら、人類』~スウェーデンの映画
原題/En duva satt pa en gren
英訳/A pigeon sat on a breach reflecting on existence
和訳/鳩は存在を反映して、枝に座った
スウェーデン出身の監督ロイ・アンダーソンの「人間であることに関する三部作」の最終章としてつくられた作品である。
プロローグとして「3つの死との出会い」から始まる
死との出会い その1
奥の台所で夕食の支度をする妻らしき女性の後ろ姿を背景に、ぼーっと立っている夫らしい太った男が、
ワインを飲むためだろうか、栓を抜こうとするが、なかなか抜けない。股に挟んだり、足で抑えたり。
やがて苦しくなって、心臓を押さえながら床に倒れて、あえなく死んでしまう。
死との出会い その2
病院。老いたママは臨終のときを迎えようしている。長男と長女がうなだれて座っている。
そこへ次男らしい男性がやってくる。ベッドに横たわるママは、寝ながら大きなバッグを両手でしっかり握っている。
バッグには宝石、金時計、結婚指輪やカフスが入っている。車を売った7万クローナの現金も入っていると次男が言う。
次男は「ママ、バッグは天国まで持って行けないよ」言ってバッグを取り上げようとするが、ママはカラスのような泣き声をあげて、抵抗する。
死との出会い その3
どうやら客船のレストランらしい。レジの横で男性が横たわっている。正確には死んでいる。
乗務員が寄り添い、船長のような人が、対処の方法を指示していると、
レジ係の女性が「これをどうしますか?」と船長さんに示す。死んだ男性が注文したシュリンプ・サンドとビールであった。
「いい質問だ。二度売ることはできないので、だれかにあげよう」と答える。レジ係は、お客に、声を掛ける。
すると太った老人がビールを貰う。
ここから本編が始まるという映画。
サムとヨナタンという二人のセールスマンが、「人を楽しませる」3種類の面白グッズを売り歩いている。
ロングセラーの「吸血鬼の歯」、古典的な商品「笑い袋」、イチ押しの新製品「歯抜けオヤジ」。
それを売り歩く(ただし全然売れない)なかで出会う様々な人類との物語だ。
北欧らしい沈鬱な空気感とそれに寄り添う音楽、悲惨な現実を、感情を抜き取って描く表現力は、奇妙にユーモラスでさえある。
固定されたカメラアングル、計算しつくされた登場人物の表情や言葉づかいなど、針に糸を通すような世界観は、
天才と呼ばれた監督に特有のものだと思う。なぜかピーテル・フリューゲルの絵画を思い起こさせた。
第71回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞している。是非ご覧ください。